<目次 または フレームありの目次>

 コンピュータグラフィクスは広範囲に応用されている。本章では、アニメーション、CAD、ビジネスグラフィクスなどの応用について述べる。
7.1 コンピュータ・アニメーション

 コンピュータグラフィクスの中でもおもに動画を作成する技法は、コンピュタ・アニメーションとよばれている。現在、CGの作品を最終的には動画として鑑賞する場合が多く、コンピュータアニメーションの重要性は高いといえる。 アニメーション(略してアニメ)という用語は、英語の“animate”[生かす、生命を与える、活気づける]から由来している。CGによるアニメ作成に使用されるソフトウェアは、絵筆を利用して絵画を作製する過程をコンピュータの補助のもとに行う2次元CG技法と、立体的な画像を作成する3次元CG技法に分類される。

7.1.1 2次元コンピュータ・アニメーションシステム

 2次元アニメは、多大の人的物的資源を費やして作製されていたセルアニメーションの作製過程の一部を省力化する目的で開発された。しかし現在では、ビデオゲーム、ビデオテックス、CD-ROMによる電子出版など、コンピュータを活用した新しい画像利用分野における作画にも積極的に活用されています。

(1) 2次元ペイントシステム

 2次元ペイントシステムは、従来水彩絵具や油絵を用いて作製していたアニメーシヨン、イラスト、タイトル、グラフなどを作画するもので、コンピュータの操作経験の少ないアニメータが短期間の訓練により所望する画像を創作できるシステム環境が要求されている。おもな2次元CGシステム例は次のようである。

(2) エレクトロペイントシステム

 このシステムは、絵筆に相当するライトペンまたはディジタイザ(digitzer)、および、キャンバスに相当するカラーディスプレイから構成される。またディスプレイに表示する画像は、フレームバッファとよばれるメモリ上にディジタル画像として記憶される。画像作成用のエレクトロペイントに必要とされる仕様を列挙すると次の通りである。

 ・ 高速に描画作業が進められるように高速応答性を有すること。

 ・ 操作者が描画している速度に合わせて表示されること。

 ・ アーチストが芸術的能力を十分に発揮してすぐれた作品ができるようにソフトウェアが具備されていること。

 ・ コンピュータに不慣れな人も使いこなせるように、ユーザフレンドリーな環境であること。ペイントシステムは、従来の絵具を使用した絵画作成では得られない、コンピュータの能力を有効に利用した操作モードが備えられていなければならない。

(3) 彩色システム

 セル線画に対する絵具による色付け作業を、コンピュータを用いて行うシステムである。 通常、カラーディスプレイに表示されたセル画像をソフトセルとよび、ソフトセルを使用することにより省資源と省力化が期待されている。図\ref{fig:fig8-8}は、ペイントシステムにより背景を作成し、キャラクタを彩色システムで作製して合成したものである。

(4) キーフレーム(key frame)

システム コンピュータを用いて自動的に動画像を生成するシステムがあり、その手法としてキーフレーム法が使用されている。キーフレーム法とは、元来手描きアニメーション分野で開発された方式で、アニメーションの流れの中で動作の主要な変化点の絵をキーアニメータが描き、その中間の多数の絵をアニメータが描く手法をいう。これを中割り(インビトウィーン:in-between)ともいわれる。コンピュータによる中割り手法としては、線形キーフレーム法、非線形キーフレーム法、スケルトン法などがある。図7.1は、牛から鹿に変形する輪郭を示している。このようにある図形を除々に変形させて別の形になる変換をメタフォルフォーシス(metamorphosis)という。また、2次元の画像処理によって変形する処理はモーフィングと呼ばれる。

図7.1: メタフォルフォーシスの例(T.Sederberg, SIGGRPH'92から)

(5) ライブアニメーション

 アニメーションの対象は大きく分けて2つある。1つは、人間や動物のように自らの意志・目的をもって動く生命体''の動きであり、もう1つは、自動車・ロケットなどの“無機物”の動きである。おもにテレビのアニメーションにおいては、人間を中心とする生命体の動きの生成が重要であり、これをライブアニメーションという。

7.1.2 3次元コンピュータアニメーション

3次元CGは、立体を対象に映像を生成するものであり、現在、多くのコマーシャルや映画において、実際に撮影することが不可能な場面の作成用として利用されている。3次元コンピュータアニメーションの方法は、従来の3次元CGにおいて利用されているモデリングとレンダリング法により、時間的に少しずつ異なる画像を繰り返し作成して動画化するものである。なお、ワイヤフレームモデルは、取り扱いがきわめて簡単であるため、作成したいアニメーションの動きをあらかじめチェックするために利用される。


7.2 CAD/CAM

 CAD/CAMシステムの構成、CAD/CAMの歴史を解説する。

7.2.1 CAD/CAMとは

(1) CAD/CAMシステムの構成

 工業製品の設計から製造工程までを、計算機の支援のもとに効率よく進めることを、CAD (Computer-Aided Design)および CAM(Computer-Aided Manufacturing)という。より具体的には、概念設計から詳細設計にいたる設計部門、製造計画とデータベース化、製造過程の制御と生産管理のあらゆる活動にCGを含む情報処理技術を導入し、設計に要するコストや日数の低減、品質の向上と標準化などを図るのが目的である。おもな構成要素として、製品形状モデリング、技術情報のデータベース管理、CGおよびユーザインタフェース、有限要素法などの構造解析、数値制御(NC)、プロダクトモデリングなどの各システムが含まれる。

(2) 応用分野

 CAD/CAMの応用分野は膨大である。一部の例をあげると、機械および部品、自動車・航空機・船舶などの輸送機、建築・インテリア、土木・都市計画、プラント設計、プリント基盤とLSI、アパレル・ファッションなどの分野がある。また具体例としては、ロッキード社のCADAM、ソリッドモデリング用のTIPSやGEOMAP、NC制御用のAPTなどがある。

(3) CAD/CAMの発展

 生産部門への統合的な発展としては、CAE(Computer-Aided Engineering)、CIM (Computer Integrated Manufacturing)の流れがある。また、エキスパートシステム(expert system)など人工知能の成果を取り入れた高機能化の研究開発も活発に行われている。

7.2.2 CAD/CAMの歴史

(1) CAD技術の発生(1960年代後半)

 図形処理の仕事を図形処理言語の形にまとめたものに、工作機械の数値制御用のAPT(Automatically Programmed Tools)システムがある。図形処理システムのもう1つの源流としてカルコンプ社のプロッタ(1958年)のためのサブルーチンをあげることができる。これはコンピュータの計算結果を図表化するプログラムとして広く使用された。CADという述語の提唱はMITのCADグループが行ったと伝えられている。MITのCADグループが編成されたのは1962年頃で、この活動の推進者は、曲面の数式表現の原形を提案したS.A.Coons教授や、数値制御用言語を開発したD.T.Ross教授である。このCAD概念と、イワン・サザーランドがスケッチパッドで提案したCGによる対話方式とが結びついて、1960年代後半にCADのイメージが次第につくりあげられた。本格的実用化を実現したものとして ロッキード社のCADAMシステム(1967年)が有名である。

(2) CADシステム(1970年代)

 CADシステムの開発は、最初の頃は、米国の航空機製造、自動車製造などの大企業の中で始められた。航空機、自動車、船舶などの輸送機械の製造過程では大量の図形処理業務が必要である。1960年代から1970年代にかけて開発された第1次CAD/CAMシステムは、これらの仕事の自動化を意図したものであった。大型コンピュータに多数のグラフィックスディスプレイ装置を結合した中央集権形の統合システムが計画された。1970年代の中頃からコンピュータの利用形態に新しい変化が現われた。それはDEC社のミニコンピュータやテクトロニクス社の蓄積管形ディスプレイなどの普及によってもたらされた自立分散形式への移行である。自立形ターンキーCADシステムが典型になった。これらのCADはベンチャー形の会社(カルマ,アプリコン,コンピュータヴィジョンなど)によって開発され、1970年代の初期に発表されたものが多いが、本格的普及は1970年代の後半から始まった。この需要拡大を支えた最大の市場はエレクトロニクス産業であり、プリント基板やICマスクの製造のために精密製図が必要になったためである。エレクトロニクス産業の自己増殖は、メモリやプロセッサの価格を急降下させ、システムの分散化に拍車をかけた。メモリ価格の急落によって、ディスプレイ装置も1970年代の終り頃からラスタスキャン(raster scan)型がベクトルスキャン型や蓄積管型にとって替わり、カラー表示が普及し始め、CADシステムの供給形態も一変した。

(3) パソコンCAD(1980年代前半)

 1980年代のCADシステムの特徴は、ひとことでいえば多様化ということである。1970年代の後半から始まったインテル社、モトローラ社などのマイクロプロセッサの開発競争が、1980年代に入ってパソコンやワークステーションを誕生させた。それが直ちにパソコンCADやワークステーションCADに結びつき、CADシステムの適用範囲の裾野を広げた。従来の機械系CADや電子回路系CADのほかに、プラント建設、建築、住宅産業、精密機械、金型、家電、アパレル、地図などへ専門化し、多極化が進展した。

(4) ワークステーションCAD(1980年代後半)

ワークステーションの出現はCADシステムの機能の充実をもたらした。グラフィックスワークステーション、マルチウィンドなど操作面での進歩が顕著になり、また処理速度の向上によって3次元形状処理やパラメトリックデザイン、リアルな色表示なども可能になった。ソフトウェアの側では、人工知能の応用、オブジェクトオリエンテッド言語の採用、製品モデル等々話題は豊富であるが、その成果はまだ不十分で、CAD技術分野で1980年代の特徴として注目されることは、むしろ基盤技術の見直しという点である。1970年代後半の曲面の数式表現や形状モデリングの研究に続いて、製品モデル、設計論などの研究が行われた。これらによってCAD/CAMが工業技術として認知されるための条件が次第に整えられた。標準化活動も基盤技術であり、これにはCGのアプリケーションプログラムの標準化(GKS,PHIGS,CGM,CGIなど)と、CADデータ交換の標準化(IGES、STEPなど)という2つの活動がある。1980年代のCADシステムの特徴の1つはCGとの融合である。ラスタスキャン型ディスプレイ装置を使うようになって、線画を主とした従来の表示形式のほかに面画の出力が加わり、CAD出力にCGの表現手法が採用されるようになった。そして、プレゼンテーションの機能を強化したCADシステムが注目され始めた。


7.3 シミュレーションとCGシステム

7.3.1 ビジュアライゼーション

 物理的なシミュレーションやCTスキャナなどから得たデータの意味を理解しやすいように、形式としてグラフィック表示すること、すなわち可視化(visualization)することをいう。サイエンティフィックビジュアライゼーションともいわれる。科学、工学、医学、芸術など多方面にビジュアライゼーションは利用されている。代表的な例として、流体が運動する様子を偏微分方程式などで表現し、これをスーパーコンピュータで解いて、得られた結果をアニメーションとして表示することや(図\ref{fig:fig8-8})、医学分野でのボリュームレンダリングなどがあげられる。(4.3(4)参照)。流体の表示の場合には、3次元空間の各格子点で流れの方向と流速が得られるが、これを理解しやすいような2次元画像とするにはどのような表示を行ったらよいのか、よく検討する必要がある。また、電気工学分野では、有限要素解析結果の電界、磁界の分布を表示も行なわれている。最近では、2次元、3次元の各種解析結果を可視化するソフトも多く販売されるようになってきている。

7.3.2 モンタージュ技法

 2枚の画像を合成して新しい画像をつくるための技術である。モンタージュ技法(montage technique)を用いて、実写の風景写真にCGで作成した画像をはめこむと、これから建てる建築物が周囲の環境にうまくとけこむかどうかの評価などに有効である。モンタージュを行うときには、画像の境界が目立たないように合成する必要がある。このためには、各画像の大きさや視線方向が一致しているだけでなく、照明条件なども合わせておく必要がある。また、境界上の画素に2つの画像の混色を与えると、境界のギザギザが目立たない。このためには、はめこむ画像(上の例ではCGによる建築物の画像)で、各画素に対して、表示物体(上の例では建築物)が占める面積の比率を与えておくことが有効です。このようなデータを入れた領域をAバッファ、あるいは、この面積比をα値とよぶことからアルファチャネルといわれる。これを用いる方法は、αアルゴリズムといわれる。モンタージュ技法によって作成した画像の例を 図7.2に示す(左のビルがCGによるもの)。なお、この例では6.3で述べた方法でエリアシングを除去している。

図7.2

図7.2: モンタージュの例

7.4 ビジネスグラフィックス

 さまざまな統計データなどから、その意味を解釈しやすいようなグラフを作成する CGシステムのことをいう。ビジネスグラフィックス(business graphics)が作成するグラフには、棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ、帯グラフなどのほか、地図に書き込んだグラフ、立体的なグラフなどさまざまなものがあり、プリンタで印刷できるほか、画面を直接投影する場合もあり、会議でのプレゼンテーションなどに使われている。図7.3に3次元的な棒グラフおよび円グラフの表示例を示す。

図7.3図7.3

図7.3: ビジネスグラフィクスの例

7.5 バーチャルリアリティ

 CGのハードおよびソフトの発展に伴い、リアルタイムで我々の回りを取りまく環境または仮想の環境を表示可能になってきた。そこで、人工的に作られた環境の中にユーザがコンピュータの入出力装置を介して入り込み、各種の作業を現実に行なっているかのような世界を作ることが可能になった。これを、バーチャルリアリティまたは人工現実感(Artificial reality)という。人間には、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚などの感覚があるが、これらのすべてとはいかないが、入出力装置で実現している。3次元空間内の位置や動きは、データグローブやデータスーツにより検出している。顔の動きに同期した画像はヘッドマウンティドデイスプレイで行なわれている。この技術により、仮想的な室内を自由に歩きまわることができる。歩くだけでなく、ドアをあけたりといった行動も可能である。