<目次 または フレームありの目次>

 はじめに

最近は、CG(コンピュータ・グラフィクス)という言葉が一般化してきた。コンピユータ・グラフィクスと呼ばれる分野は多岐にわたっている。本章においては、3次元コンピュータグラフィクスの概要、基本技術、歴史、応用分野について述べる。


1.1 3次元コンピュータグラフィックスの概略

 3次元コンピュータグラフィクスは、計算機内に定義された形状モデルをディスプレイのスクリーン表示することである。この処理過程を効率よく行う方法が、これまでに開発されている。ここでは、コンピュータグラフィクスに必要な技術を概説する。

   図1.1 (a)  図1.1 (b)  図1.1 (c)

(a)ワイヤーフレーム表示   (b)隠線消去    (c)陰影表示

図1.1 多面体の表示
 図1.1に、多面体を表示した例を示す。

 (a)は、ワイヤーフレーム表示といわれ、多面体の総ての稜線を表示したものである。(b)は、本来見えない線を消去して表示したものである。この表示法によりややわかり易くなる。さらに(c)は、見えない面を除去して、可視面に濃淡を付けて表示したものである。このように簡単な例において、必要なCG技術を考えてみる。

 まず、形状を計算機に記憶しなければならない。これは、頂点の3次元座標と、そのつながり(稜線および面)を記憶する。次に3次元物体を2次元平面上に表示する必要がある。そのため投影が行なわれる。次に、図(b)のように見えない線を除去する。この処理を隠線消去( hiden line eliminationまたはhidden line removalという。図(c)のように見えない面を除去することを、隠面消去(hidden surface removal)という。また、光源を与えて、面上の各点での輝度を求める処理をシェーディングという。

 図1.2は、曲面の表示例であり、ベジェ曲面(B'ezier Surface)という形式で形状が与えてある。図のティーポットの形状データは、コンピュータグラフィクスで標準的に使用されているもので、ユタ大学のNewellによって作られた。図(a)のように、曲面は制御点によって定義される。この例では、4×4の制御点によって1つの曲面が定義されており(図では制御点間を直線で結んだもの)、32個(底面の長方形を除く)の曲面(パッチと呼ばれる)から構成される。(b)は、等パラメータ線を表示したものである。なお、1つの曲面においてx, y, z座標はパラメータu,vによって表現されており、u(又はv)を一定としv(またはu)を変化させた場合の曲線を等パラメータ線という。図(c)は隠線消去したもので、図(d)は影や反射まで考慮して陰影表示(レイトレーシング法を利用)したものである。

    

(a) 制御点の表示     (b) ワイヤーフレーム表示

    

(c) 隠線消去         (d) 陰影表示

図1.2  曲面の表示
それでは、Shockwaveで見てみましょう!!

1.2 画像の生成過程および基本技術

 モデル(形状および面の性質)が定義された後、視点(またはカメラ位置)、視野範囲、光源の位置および種類が与えられると、スクリーン上の各画素での色を求めて表示する。

図1.3 3次元CG生成手順

 図1.3に3次元CGの生成手順の概略を示す。データを入力し、その形状を計算機内に内部表現する過程をモデリング(Modeling)とよぶ。座標変換は、移動、回転および投影を含む。線画として表示する場合には隠線消去が施される。一方、陰影画像なら、隠面消去がされ、最後にシエーディングされて、ディスプレイに表示される。座標変換、隠面消去、シェーディングを含めてレンダリング(Rendering)と呼ばれる。システムによっては、形状データを作成するプログラムであるモデラーと、表示するプログラムである、レンダラーとに分割してあるものも多い。

以上の処理において、3次元物体を表現するには、次の基本的技術が必要である。

(a) 座標変換、

(b) 隠線消去、

(c) 隠面消去、

(d) クリッピング(視野内の物体を切り取る)、

(e) 付影処理、

(f) 光の反射、透過、屈折、

(g) 光源の特性(光源の色・光源の種類)。

さらに画質を向上させるには、

(h) 表面の模様材質の表現(テクスチャーマッピングと呼ばれる)、

(i) アンチエリアシング(面の境界のギザギザの除去)、

(g) 光の相互反射(ラディオシティと呼ばれる)、

(k) 大気の効果(例えば霞の効果)、

(l) 山、樹木、雲などの自然物の表現。


1.3 CGのシステム構成

 CGシステムを構成するには、基本的には計算機本体と、画像を表示するグラフィクディスプレイからなる。 また、場合によっては、入力装置として、タブレット、TVカメラ、ドラムスキャナも用いられる。表示装置 はR,G,B(赤,緑,青に相当)の色要素に対して、各8ビット、(すなわち256レベル)で、1600万色以上の色が表現できる。画素数(分解能)は、640×400から1280×1024のものがよく用いられる。

表示するための画像はフレームメモリに記憶され、フレームメモリの内容が読み出され、アナログ信号に変 換されスクリーンに表示される。最近では、座標変換、隠面消去をハードウエアで実現するグラフィクス・ ワークステーションも多く利用されている(第(8.2)章参照)。


1.4 CGの歴史

 1960年代CGの誕生は、1962年の、イワン・サザーランド(Ivan E. Sutherland)によるスケッチパッドシステムであるといわれている。サザーランドは,コンピュータの出力装置としてブラウン管(CRT)すなわちディスプレイを利用し、対話形式でグラフィクス図形を取り扱う簡単なシステムを作成した。

 一方コンピュータを用いた映像作成の試みは、1960年代の初頭にアメリカのベル研において始めらた。その目的は、エンターテイメントではなく、まさにエンジニアリング分野における必要性により開始されたもので、姿勢制御装置を装備した人工衛星の角度変化の運動を、迅速かつ正確に計算して、ディスプレイ上に映像表示する、宇宙開発のためのシミュレーションでした。

・ 本格的利用時代(1970年代後半から80年代初頭)

1970年代の後半になると、テレビのみならず、映画における特撮場面にもCGが利用されるようになってきた。とくに1977年につくられた作品『スターウォーズ』においては、戦闘場面の特殊撮影をCGにより作成し、従来の戦闘場面では不可能であった迫力ある場面が展開された。また1979年には、NASAが木星に探査衛星を接近させた際の衛星フライトシミュレーションがCG技法で作成され、テレビ放映された。

 多くの視聴者が同時にCG画像に出会い、感動したイベントでした。さらに1982年に上映された『トロン』 は、CGブームを巻き起こす要因となった作品である。CG実用化時代(1980年代前半)1970年代にCGはアメリカにおいて全盛期を迎えたが、80年代からは日本においてもCGブームが起こってきた。たとえば、本格的なCGプロダクションであるJCGL(コンピュータグラフィックラボ)やリンクス(東洋 現像所の資本によるCGプロダクション)が誕生し、まさにCGの実用化時代を迎えたといえます。その後多数 のCGプロダクションが発足し、多くの作品がつくられました。それにより、従来実写が主体であったテレビコマーシャルにも、CGにより作成された映像が続々登場し、また、番組のタイトルやニュースのバックタイトルなどにも、CGの技法を用いて作成された映像が数多くみられるようになってきました。またこの時代になると、CFやタイトルのみならず、事故状況の再現(たとえば航空機事故のフライト再現)にも有効に利用され始めた。

・ CG普及時代(1980年代後半)

CGが実用化時代に入った最大の原因は、超LSIの出現、および画像処理技術のハードとソフトの両面における急速な進歩である。1970年代には、CG映像は大型コンピュータを駆使するか、または1本の作品に数ケ月をかけて、多大な労力を費やしてつくられていた。現在では,高性能なワークステーション(特にグラフィクス・ ワークステーション)が安価に普及しつつあり、またパソコンのグラフィクス機能の向上にともない、誰もが手軽にCG作品を作成できる状況になった。


 1.5 CGの応用

 CGの応用について分類してみると次のようである。CAD分野においては、機械部品、電気製品等の形状設計が航空、自動車、建設といったあらゆる産業において実用化されてい。また照明設計にも応用されるよ うになった。エンターテインメント分野においては、アニメーション、TVコマーシャル、番組タイトルに応用されている。教育訓練の分野では、フライトシミュレータ、CAIに応用されている。最近では、サイエンティフィックビジュアライゼーションとして、有限要素解析結果の視覚化、流れの可視化、数式のビジュアライゼーションが注目されている。また、自然物の表示も盛んで、山(フラクタル),惑星,木,森,植物,雲,海の波の表現が試みられている。