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画像処理は原画像(入力画像)にある操作を加えて、人間の視覚の能力不足を補うことを目的とする。処理された画像を人間が判断する処理と、機械が判断するものとに分類できるが、前者は画像処理、後者は画像認識といわれる。本章では、前者に主眼をおいて説明する。
10.1 アナログ画像とディジタル画像

 画像は2次元平面上に濃淡や色が分布したものであるから、平面上の座標を(x, y)とし、また濃淡をgとすればg(x, y)と表現できる。x, y, gが連続的(アナログ)な値で表現される場合、この画像をアナログ画像という。逆に、x, y, gが離散的(ディジタル)な値で表現される場合は、ディジタル画像(digital image)という。

 アナログ画像をディジタル画像に変換することを 画像のA/D(アナログ/ディジタル)変換あるいは画像のディジタル化という。画像をA/D変換するには、連続的な値である座標(x, y)と濃淡gを離散的な値に変換する必要がある。前者を画像の標本化、後者を画像の量子化という。画像の標本化では、アナログ画像上に、等間隔の網目状に置かれた標本点における濃淡がとり出される。画像の量子化では、取り出された濃淡が離散的な値に変換される。したがって、x方向にN点、y方向にM点の標本点が設定された場合、ディジタル画像はN×M点の標本から構成されることになる。ディジタル画像を構成するこの標本は、画素またはピクセルとよばれ、このディジタル画像はN×M画素あるいは n画素×mライン(横にn画素,縦にmライン)の大きさであるという。

一方、量子化された値を濃淡レベル(階調)または量子化レベルという。利用目的にもよるが、写真のように連続的な階調をもつ画像に対しては、256レベル(8ビット)に量子化するのが一般的である。量子化レベルが2(1ビット)の画像をとくに2値画像(binary image)とよび、2以上の量子化レベルの画像を多値画像とよぶ。図10.1に、画像処理で標準的に用いられる画像の表示例を示す。図(a)は256階調で、(b)は16階調、(c)は8階調、(d)は4階調、(e)は2階調である。

図10.1 a 図10.1 b 図10.1 c

(a) 256階調         (b) 16階調          (c) 8階調

図10.1 d> 図10.1 e 図10.1 f

(d) 4階調       (e) 2階調       (f)ヒストグラム

図 10.1: 画像の階調表現

10.2 画像の濃度変換

 画像が明るすぎるとか暗すぎるような場合や、画像中の特定部分の微妙な濃淡変化を見たいときなどに行われる処理で大きく分けて次の方法がある。

10.2.1コントラスト変換関数

画像の濃淡を目的に応じた適当な関数で変換する方法である。比較的よく使用される関数としては、図10.2のようなものがある(線形変換)。関数グラフの傾きが1で原点を通過する直線の場合、コントラストは変わらない。しかし関数グラフの傾きが1より大きいほど、その部分に対応する濃淡レベルのレベル差がより大きくなるように変換されるから、コントラストは高くなる。逆に傾きが1より小さいとコントラストは低くなる。他にも種々の変換関数(例えば、ガンマ補正関数)がある。

図10.2: 線形変換

10.2.2 ヒストグラム変換

 各濃淡レベルの画素の数を数えあげたものを濃淡レベルのヒストグラムという。図10.1(f)は、図10.1(a)のヒストグラムを示す。ヒストグラム変換は、この濃淡レベルのヒストグラムの形を変更する方法である。たとえば、図10.3(a)のような濃淡レベルのヒストグラムを示す画像が、図10.3(b)のような濃淡レベルのヒストグラムを示す画像に変換される。とくに、一様分布の形に変換される方法の場合、ヒストグラム平滑法という。

図10.3: ヒストグラム平滑法
10.3 面積階調法(疑似濃淡表示)

 白と黒の2値しか表示できないディスプレイやプリンタを用いて白黒の濃淡画像を表示したい場合、白と黒の面積の割合を変化させて階調を再現させる手法を面積階調法という。代表的な方法として濃度パターン法とディザ(dither)法がある。

10.3.1 濃度パターン法

 入力濃淡画像の1画素を出力側のn×n画素(これをサブマトリックスと呼ぶ)に対応させ、各画素の濃淡レベルに合せてサブマトリックス内の 黒の画素の数を変えることで濃淡を再現する。サブマトリックスの大きさを大きくするほど階調再現性はよくなるが、入力画像に対して出力側はn×n倍の表示領域を必要とする。(図\ref{fig:fig2-8})。

10.3.2 ディザ法

 入力画像の濃淡レベルを、一定の規則で算出したしきい値と比較してそれ以上なら1(白)、それ以下なら0(黒)として表示する方法である。仮に、しきい値を一定とすると階調は再現でないが、画素ごとに比較するしきい値を一定の規則で変化させると、全体として階調が再現できる。入力画像の画素数と同じ画素数で階調再現できるのが大きな特徴である。代表的なものとして組織的ディザ法とランダムディザ法がある。

(a) 組織的ディザ法

 n×n個のしきい値からなるサブマトリックス(これをディザマトリックスという:図10.4(a)参照)を設定する。このディザマトリックスを入力画像に重ね合わせ、対応する各画素の濃淡レベルとしきい値を比較し、入力画像の値の方が大きい場合は1(白)、小さい場合は0(黒)として2値表示する。n×n画素の処理が済んだら、順次ディザマトリックスを次のn×n画素の位置に移動し、同じ処理を繰り返していくというものである。1画素単位で階調を再現するわけではないが、画像全体としてはn×n個の閾値が均等に利用されるため階調が再現できる(図10.4(b))。

% \begin{figure}[htbp] \vspace*{4.5cm} \caption{組織的ディザ法} \label{fig:ditter} \end{figure} %

(b) ランダムディザ法

入力画像の各画素に対して乱数を発生させ、その値をしきい値とする方法である。一般に出力画像はざらついた画像となる。(図\ref{fig:randam})。


10.4 カラー画像の表示

(a) モノクローム画像とカラー画像

 上記(\ref{enm:hyouhn})で述べたようにfが濃淡を意味する場合、これは白/黒の濃淡やある1つの色の濃淡を意味しているので、画像f(x, y)はモノクローム画像です (短縮してモノクロ画像とよぶこともあります)。一方、あらゆる色はR(赤)、G(緑)、B(青)の3原色を合成することで表現できるから、カラー画像の各画素は3原色の濃淡で表される。したがって、カラー画像は3原色に相当する3枚のモノクローム画像から構成されていると考えることができる。カラー画像のように各画素が複数のモノクローム画像の濃淡レベルから構成される画像を、一般にマルチチャネル画像とよびます。上記の場合は3原色に相当する3つのチャネルがあるので3チャネル画像であり、モノクローム画像は1チャネルの画像ですから、シングルチャネル画像です。

(1) 限定色表示

 ディスプレイによっては、一度に表示できる色の数が8から256色程度に限定されているものがある。限定色表示はこうしたディスプレイを用いてカラーの入力画像の色調をできるだけ忠実に再現したい場合に用いる手法である。これは入力画像の色の分布を調べ、その出現頻度などに注目して最適な個数の色を選定し、入力画像の各画素に割り当ててカラー表示するものである。

(2) シュードカラー(pseudo color)表示

 画像の濃淡レベルをいくつかの領域に区切り、それぞれの領域に異なる色を割り当て、カラーで表示する手法である。微妙な階調の違いを色の違いとして強調して表現できる。(図\ref{fig:fig2-8})。

(3) 疑似カラー(フォールスカラー:false color)表示

同一の対象物を異なる色フィルタで分解撮影した3枚の白黒画像に、それぞれ3原色(赤,緑,青)のいずれかを割り当て、もとの色とは違った色にカラー合成する手法である。


10.5 画像の変換
10.5.1 画像の平滑化

 雑音などのためにざらついた感じを与える画像の濃淡を平滑化することで見やすくする処理である。

(1) 移動平均フィルタリング

濃淡レベルの移動平均を求める処理である。注目画素の濃淡レベルをその画素を中心とした局所領域(3×3画素の矩形領域など)における濃淡レベルの平均値で置き換える処理を、すべての画素に対して行う。たとえば、3×3画素領域の各点の濃淡を均等に加算して、9で割って平均を求める。あるいは、注目する画素に近いほど重みを大きくして加算する方法もある。局所領域の大きさが大きいほどより強く平滑化される。図10.5に平滑化による雑音除去例((b)が処理後)を示す。

図10.5 a 図10.5 b

     (a) 入力画像         (b) 平滑化による雑音除去例

図10.5: フィルタリング

(2) メディアン(median)フィルタリング

 移動平均フィルタリングでは注目画素の濃淡レベルを局所領域の濃淡レベルの平均値で置き換えるが、そのかわりに中央値(メディアン)で置き換える方法である。中央値とは、その値以下の濃淡レベルを示す画素の数と、その値以上の濃淡レベルを示す画素の数とが等しくなる濃淡レベルを意味する。(図\ref{fig:fig10-11})。

(3) 低域強調フィルタリング

 ざらついた感じを与える画像は、一般に高い空間周波数の成分が大きくなっていることに注目し、高い周波数の成分を小さくすることで相対的に低い空間周波数成分を強調する方法である。画像の空間周波数成分は、画像をフーリエ変換することによって得られる。フーリエ変換後、高い周波数の成分をより小さくし、逆フーリエ変換することによって平滑化された画像が得られる。

10.5.2 画像の尖鋭化

 ぼけのある画像をより鮮明にする処理である。2次微分を利用した尖鋭化フィルタリングと、フーリエ変換を利用した高域強調フィルタリングなどの方法がある。

(1) 微分フィルタリング

 前述の雑音除去は一種の積分操作で実現されたが、画像の尖鋭化は微分操作を施す。 もっとも簡単なフイルタは、水平。垂直方向の差分の2乗和の平方根を注目する画素の値とする方法である。図10.6に微分フイルタの処理例を示す。

\begin{figure}[htbp] \vspace*{4.5cm} \caption{微分フィルタリング} \label{fig:bibun} \end{figure}

(2) 2次微分を用いた尖鋭化フィルタリング

 原画像の濃淡レベルから画像の2次微分(ラプラシアン)の値を差し引く処理である。

 濃淡が図\ref{fig:fig2-8}(a)のように緩やかに変化しているデータの2次微分は(c)のようになるが、原データ(a)から(c)を引くと(d)のような結果が得られる。また、(a)と(c)を比べると濃淡変化の度合いを示す傾斜がより大きくなっていると同時に、原データにはなかったくぼみとこぶが発生していることがわかる。これらの効果で濃淡が変化している部分(エッジや線)がよりくっきりとし、画像はより鮮明に見えるようになる。

(3) 高域強調フィルタリング

濃淡の変化が緩やかな画像はぼけたように見えるが、そのような画像の空間周波数分布をみると、一般に高い周波数の成分が小さくなっている。そこで、低い周波数成分を小さくすることで相対的に高い空間周波数成分を強調することによって 尖鋭化を図る方法である。画像の空間周波数成分は、画像をフーリエ変換することによって得られる。フーリエ変換後、低い周波数の成分をより小さくし、逆フーリエ変換することによって尖鋭化された画像が得られる。


10.6 画像処理の応用
10.6.1 画像処理の医用への応用

 医学の分野で利用される画像には、染色体や細菌などを撮影した電子顕微鏡映像、細胞や微生物などを撮影した光学顕微鏡映像、レントゲン映像、胎児などを撮影した超音波断層映像、X線CTなどいろいろな種類がある。(図\ref{fig:fig11-12})。これらの画像を判読しやすくしたり特定の情報を抽出したりするために、種々の画像処理技術が利用される。

(1) コンピュータ・トモグラフィ

 X線などを対象物に照射すると、対象物の吸収係数に応じて一部は吸収されるが、大部分は透過する。この透過線を検出器で観測すると投影像が得らる。一方向照射を徐々に変化させて得られる全方向からの投影像を用いて、対象物の断面像を再生する方法をCT(コンピュータ・トモグラフィ)という。断面像の再生には種々の方法があるが、フーリエ変換法やコンボリューション法などがよく利用される。X線を利用して人体の断面像を再生する医療用のX線CTが有名である。

10.6.2 産業への応用

 産業分野では、ICのプリント基盤やガラスレンズなど製品の表面欠陥の検査、ネジなどの形状検査、溶接部など製品の内部をX線や超音波を用いて検査する非破壊検査、組立作業など産業ロボットの目としての機能、生鮮食品などの選別・仕分け、郵便番号やバーコードなど文字・図形の自動読みとりなどによく利用されている。

10.6.3 リモートセンシング

 対象物や現象に関する情報を、航空機や人工衛星など遠く離れた所から検知装置(センサ)により収集し、解析する技術をリモートセンシング(remote sensing)という。狭義には、地表面からの電磁波を画像の形で記録し、地表の対象物や現象に関する情報を得ることをいう。収集された情報から、地表の物体の識別やそれがおかれている環境を把握するために種々の画像処理技術が利用される。

10.6.4 コンピュータマッピング

 コンピュータを用いて地図の作成や更新、地理情報の管理などを行う技術をいう。 この技術は、自動地図作成と、道路や埋設管などの施設管理の2つに大別される。普通、コンピュータマッピングでは、図面を属性ごとに分けて(たとえば道路だけの図面、等高線だけの図面、建物だけの図面)管理し、目的に応じて必要な図面をディスプレイやプロッタの上で重ね合せて利用する。各図面はベクトルデータの形で管理する場合とラスタデータの形で管理する場合がある。また、扱う図面や地理情報の量が膨大なので、これらの管理のためにデータベースがよく利用される。

10.6.5 クロマキー

 画像のはめ込み合成の手法の1つで、画像中からある特定の色相(クロマ)をもつ領域を抜き出し、そこにほかの画像をはめ込むものである。このとき、抜き出しに利用した信号(この場合は特定のクロマ)をキー信号ということからクロマキー(chromakey)とよぶ。キーの色としては、人間の肌色の補色である青色がよく使われる。

10.6.6 αアルゴリズム

 モンタージュ写真のように、ある物体画像を背景画像の上にはめ込むような画像合成を行う場合、両画像の境界領域において不自然なちらつきが目立つことがある。こうした不自然さを解消する方法の1つがαアルゴリズムである。この手法では、境界領域の色を両画像の色を混合して表現します。この混合の割合は、境界画素に占める両画像の面積比によって決定される。この面積比をα値とよぶことからαアルゴリズムとよばれる。