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5.6 ラディオシティ

 最近では、実際とあまりかわらないほどの3次元CG画像が生成できるようになってきています。いわゆるフォトリアリスティックな画像生成が一般化してきました。

 リアルな画像を生成するには、レイトレーシング法が有名であるが、 この方法と同時にラディオシティ法が リアルな画像の生成法として注目されるようになってきました。今回は、ラディオシテイ法について解説します。

5.6.1 ラディオシティ法の歴史および概略

 フォトリアリスティクな画像生成には、より精度の高いシェーデイングモデルは欠かせないものの一つです。リアリティを増す1つの要素として、ラディオシテイ(radiosity)法があります。

 照明工学の分野においては、光の相互反射(interreflection of light)の計算は従来から行われていました。また、熱工学分野においても放射伝達の理論は古くから研究されていました。しかし、いずれの分野においても、物体間の反射光(または放射熱)を遮る物体の影響まで考慮した計算法までは確立されていませんでした。

 コンピュータグラフィックスの分野に、最初ゴーラル(Goral)が導入し、影の影響も考慮した手法は西田らおよびコーヘン(Cohen)らにより提案されました。(西田らは国内では1984年に既に発表)。以来、毎年のようにこの分野の論文が発表されており、今ではレイトレーシング法と並びフットリアリスティックな画像を生成するための重要な技法として位置ずけられるようになりました。

 この技法はCG分野で、ラディオシティ法と呼ばれるようになりました。しかし、ラディオシテイは単に放射の意味であり、光の相互反射の計算いうことでは、interreflection of lightと言うべきである。相互反射を考慮すると、従来の方法に比べて次の点においてよりリアルな画像が得られます。

  1) 影が半影(ぼやけた影)を伴う。

  2) 直射光が届かない部分も、相互反射による間接光により照射される。

  3) 反射面の色が隣接する面に影響する(カラーブリーデイングと呼ばれる)。

すなわち、レイトレーシングによる鋭い画像に比べ、間接光がかもしだす柔らかい雰囲気が表現できるのが特徴です。

 相互反射の計算法としては、物体の構成面を幾つかの面素(エレメント)に分割して連立方程式を解く方法と、レイトレーシング法を拡張した方法、および両者を組み合わせた方法があります。面素分割法においては、フォームファクター(Form Factor:,形態係数)が最も重要な要素です。これの算出法としては半立方体(hemi-cube)法など多くの方法が開発されています。基本的には次の手順からなります。

  1) 形状データおよび光源の入力

  2) フォームファクターの計算

  3) 相互反射の計算

  4) 与えられた視点に対する隠面消去およびシェーデイング

 ここで、フォームファクターは幾何学的形状のみによって決まるので、光源の光度を変化させても不変です。また、光源が変化しない場合、相互反射の計算を一度しておけば、視点が変化した場合でも、再計算しなくてよい。すなわち、ステップだけでよい。ただし、鏡面反射成分は視点の位置に依存して変化するから、鏡面反射成分を考慮するときの処理は複雑となります。本稿では2、3の処理について説明します。

5.6.2 ラディオシティ方程式

 図5.24のような室内を考えてみよう。室内の各部での照度は、光源からの直射光成分と、壁等から反射された間接光からなります。

図5.24
図5.24: 相互反射の計算のためのエレメント分割

 この間接光までを含めて考える照明計算を大局照明(global illumination)といいます。この計算は、次のようにします。室内の構成面は幾つかのエレメント(面素)に分割され、各エレメント間のエネルギーの授受を計算します。光源から放射された光は何回か反射された後、最終的に各エレメントの明るさはある値となります。この計算の際、エレメント間のエネルギーの授受の割合を決めるのがフォームファクタです。

図5.25
図5.25: エレメント間のフォームファクター

 図5.25は図5.24のうち2つのエレメントの関係を示したものです。面積のエレメントiから面積のエレメントjへのフォームファクターをとすると、エレメントiでの輝度(またはラディオシティ)は、次式により表わします。

  (5.13)

 ここで、は反射率、は放射光(一般に直射光による輝度)、はエレメントjの輝度、nはエレメント数です。この式は、エレメントiでの輝度は、他の総てのエレメントからの光の総和に反射率を乗じたものとして得られることを表わしています。各エレメントの輝度は、式5.13から導かれるn元連立方程式を解くことにより求まります。すなわち、次式によって求めます。

  (5.14)

 この式は、基本的にはガウス・ザイデル法等により解くことができます。フォームファクターとは、エレメントiの総ての点から放射された エネルギがエレメントjに受け取られる率を意味し、次式により求まります(図5.25参照)。

  (5.15)

 ここで、,,の関係がある。室内に例えば机があるように、一般にエレメント間に障害物(他のエレメント)が存在することが多いです。これを考慮するため、次のようにフォームファクターを修正します。

  (5.16)

すなわち、エレメント間に障害物があるかどうかを示す、を導入します。これは、障害物が存在する場合0で、存在しない場合1です。言い替えると、は、あるエレメントから他のエレメントが可視であるかどうかにより決ます。すなわち、隠面消去の判定が必要となります。


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