Steven A. Coons Award 受賞記念

受賞講演のタイトル

StarWars風の受賞ニュース

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受賞を記念して、これまでの研究の経緯を紹介したいと思います。一般に CGは米国中心に考えられていました。すなわち、CGの技術は米国がすべてパイオニアと認識されていると思います。今回受賞ということで、日本でも先駆的に頑張っている研究者がいたと認識されたので、これまであまり主張できなかった点をまとめたいと思います。
  スターウォーズの監督ジョージルーカスの講演の前に受賞講演ということもあり、スターウォーズ風のタイトルのスライドを作成しました。折角作成しても使えなかった他のスターウォーズスタイルや、時間の都合上多くのスライドを削除せざるをえませんでした。ここでは、こうしたものを追加して述べたいと思います。


1.はじめに
この賞は私だけでなく、日本およびアジアのCGの研究者すべてに反映されるものであると認識しております。賞の中でも特に権威あるSteven A. Coons賞の受賞は全く予期してなかったことなので光栄に思っています。

私は35年間CGの研究を続けてきました。以下に研究の経緯を紹介(受賞講演の内容に準じて)させてもらいます。

 

2.研究の経緯
CG研究の経緯を6つ(エピソード6)の年代に分けて述べたいと思います。

(1)学生時代;

私をCGへと導いてくれたのは中前栄八朗教授です。私の最初の研究は広島大の学部生のときで、1970年に隠線消去アルゴリズムを提案し、1972に論文発表しました(学部時代の研究が論文になるケースは当時殆どなかった)。

中前教授(当時広島大)

隠線消去(1972)

隠線消去

私が大学院生のときには、陰影表示するアルゴリズムの論文を書きました。このころ、日本のみでなく世界でカラーモニターはまだ無かったので、ラインプリンタとプロッタを使っていました。すなわち、まだ濃淡を表せる出力装置が無い時代にすでに陰影表示を研究していました。この論文は10年後に、NewmanSproulのよく知られてる教科書[1]の中で紹介されました(これが世界に広く公開された初めての日本人によるCGの論文であるかも知れません)。SIGGRAPH1974に発足したのですから、それ以前にすでにCGに挑戦していた研究者が米国外でもいたことを認識してほしいと願います。

陰影消去(1974)

陰影消去

修士号を得た後は、研究を続けるのに使える出力装置が無かったので、CGの研究を一旦諦めマツダに就職することになりました。

(2)大学に就職へ

1979年に中前研究室がカラーモニターを入手したので、CGの研究に戻ることになりました。そのとき、私は、電気工学の学科(福山大)に属してたので、研究は電気工学の応用としてのCGをせざるを得ませんでしたので、照明設計へのCG応用をめざしました。このごろは、CGでは点光源と平行光源がのみが用いられていました。これは照明工学には不十分でした。そのため、最初の研究は異方性の点光源(スポットライトのように照射範囲が制限されたり、配光特性を持つ光源)でした。

下記画像(スライド)SIGGRAPH’81の予稿集の裏表紙として採用され、これがSIGGRAPHへの最初の貢献となりました。この画像は複数の配光特性をもつ点光源で照射された建物です。

配光曲線を考慮した点光源

複数点光源(1981)

(論文集の裏表紙に採用)

半影(世界最初) 1982

 現実の世界では、ほとんどの影はぼやけているにもかかわらず、点光源はくっきりとした影しか生み出さないことに私は気づきました。そこで、次の研究は大きさを持つ光源(最初は線光源)モデルを研究することにしました。このアルゴリズムを用いた蛍光灯(線光源)の画像は幸いにも、SIGGRAPH’82Art showに入選しました。そのおかげで、世界で最初に半影(ソフトシャドウ)処理できる方法は西田が開発した証拠が残りました。

光の相互反射の計算も照明デザインに不可欠です。何もない直方体の部屋の相互反射の理論的な考察は照明工学の分野では周知のことでした。私はこれを拡張し、1984年の論文で影による遮蔽効果も考慮に入れた相互反射の計算法を開発し、研究成果を発表した。当時、まだ日本語ワープロが無かったので全国大会の論文は手書きでした(この論文は妻の手書きでした;ジョークですが世界最初のラジオシティの論文は女性が書いたことになります.)。

この手法は今日ではラジオシティ法として知られているもので、Cornell大学でも独立に開発されました。これらのラジオシティの論文は共にSIGGRAPH’85で発表しました。我々は照明工学から発展させましたが、Cornell大学では熱放射の理論から発展させました。

最初の相互反射の論文原稿(1984.3)

最初の相互反射の画像(1985)

 下の表(左)は今日のシェーディングモデルの主要なものをしめしたものです。黄色で示されてる要素は我々が開発したものです(シェーディングモデルの多くの要素が日本発というのが理解できると思います)。下の右に示すこれらの画像は我々の貢献を簡単に示したものです。

Shading model

我々の開発したShading model

(3) 米国滞在 (曲面モデルへの挑戦)

私は、アメリカのBrigham Young 大学(米国の私立大では学生数最多)で1年間研究をする機会を得ました。それまでは、私の主な研究はシェーディングモデルでした。BYUで、私はTom Sederberg博士との共同研究で彼から形状モデリングについて学びました。我々は共同でベジエクリッピング法を開発し、私はこの手法に基づいた論文を15個以上書くチャンスを得ました。 

 SIGGRAPH’90では、曲面パッチとレイとの交差にベジエクリッピングを用いたレイトレーシングのアルゴリズムを発表しました。これは曲面を多角形に近似しないで精度よく曲面を表示できる方法です(この方法は日本のある会社でCAD用に商品化されました)。

 

Dr. T. Sederberg

Bezier Clippingを用いたRaytracing法

(4) 自然現象の可視化

私の次の研究は、子供用の本(図鑑のようなもの?)の中の「なぜ空の色は青いの?」という質問からひらめいたものでした。その時から自然現象をレンダリングするアルゴリズムについて興味を持ち始めました。

宇宙から見た地球に関する論文をSIGGRAPHに投稿しました。査読者は結果画像と実際の画像とを比較するよう求めてきました。宇宙から見た地球の画像という点では、普通は宇宙に行けない普通の人間には無理難題の話です。そのとき、日本人で宇宙を訪れたただ一人の宇宙飛行士がいました。このことにより、日本ではヒーロの毛利宇宙飛行士と会う機会を手に入れました(1日中彼の居る宇宙飛行士の部屋で、彼の撮影したスライドを見させてもらいました)。彼は私の画像を見て、非常にリアルで、特に赤い層がいいと言われました。こうして普通は体験できないことをシミュレーションで得られる科学のすばらしさを感じました。結果的には論文は採択され、その画像は論文集の裏表紙にも採用されました。(受賞講演の週のことですが、4番目の日本の宇宙飛行士(野口さん)が宇宙に滞在中であることも興味深いことです)。

水中の光学的効果

水中の光学的効果

  水の色、更に光跡やコースティクスを計算するのに大気散乱モデルを適用できます。これらの画像は水中での光跡やコースティクスを計算したものです。これは従来レイトレーシング法では不可能とされていたもので、前処理を加えることで計算可能としました。このような水中の映像は、水中を題材とするハリウッド映画に影響を与えたのだろうという人が多々あります。コーステックに関しては我々が最初ではないですが、水中で見た際のそれは初めてと言えます。

次に研究したテーマは雲で、これは多重散乱を必要としました。私は、これはSubsurface Scatteringの最初に利用した例だと信じています。

 

(5) 東大への移籍

1998年、私は東京大学に移りました。土橋先生(北大)と共同研究し、雲の表示を改良し、雲の動きと光跡のよりよい結果を得ました。

雲の表示(2000)

 

我々の自然物モデルの例

上の表は過去15年間の自然現象における我々の研究を要約したもので、地形や大気、水、自然光その他もろもろを含んでいます。(なお、ここに無い自然物としては木、虹、オーロラなど我々以外で開発したものはあります)

 

(6) 音や流体の研究

つい最近になって(2003)CGと音のレンダリングの相互関係の研究をしました。これが空気力学による音のアニメーションです。いままで、剛体どうしの衝突による音の生成の論文はありましたが、物体と流体の相互作用で生じる音を画像と同期して生成できるものはありませんでした。この論文はサウンドもCGと類似した考えで処理できるという点を示唆し、今後のCG研究の方向を広げるきっかけになると信じています。その後、流体自信の渦で生じる音の例として、炎、爆発音、噴射音を画像と同期してレンダリングする方法も発表しました。

 

風きり音(2003)

 

 その他として、リアルタイムレンダリングやNPRの研究も最近行っています。

 

3.最後に

下のスライドは私のCGへの貢献を要約したものです。SIGGRAPHに採択された多くの芸術的作品にも誇りに思っています。12個の技術論文に加え、アートショウ、エレクトリツクシアター、プロシーデイングスの裏表紙など美的な面も求められるものに多く採択されています。

SIGGRAPHへの貢献(1)

SIGGRAPHへの貢献(2)

本年は、さらに新しい挑戦として、ハプティックスの研究を行い、Emerging Technologiesに採択されました。これは水という流体に力を加えてた際の反力を感じ取れるものです。東工大の開発したスパイダーという装置でユーザを力を入力、計算した力覚をユーザに提示できるもので、今回はカヌーをこぐ体験をできる装置です(ソフトは土橋先生、装置は長谷川先生担当)。

 研究テーマを探している若い研究者のために、私が重要だと思うことを2つ言っておきます。

・画像生成のみでなくサウンド効果(力覚も)も対処する統一的システムの構築

・自然物のレンダリングに言えることですが、画像の生成結果と実際の自然とのリアルさの評価方法の確立

 

日本の社会はCGプログラマーよりもアーティストを高く評価しているというのが私の意見です。私は市場性を改善するべくプログラマーにもっと頑張るように応援したいです(本当は業界の考え方が変わるのを期待)。

 

4. 謝辞

もちろん、私の履歴は多くの人々の影響を及ぼされました。特に、中前教授(現在76歳)に謝辞を表したいと思います(中前先生は日本のCGの父と称すことができると思います)。先生なしでは、CGに強い興味をもっていなかったでしょう。

共同研究者(BYUのSederberg教授、北大土橋助教授)、研究環境を整えてくださった研究室(山下教授)や、映像作成等に協力してくれた学生達にも感謝します。

 

文献

[1] W.Newman, R.Sproul, "Principles of Interactive Computer Graphics", Mcgraw-Hill (1984)



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